なぜ神社の境内にマンションを建てるのか?賀茂祭でおなじみ、下鴨神社の境内に建つ「高級集合住宅」の謎
なぜ神社の境内にマンションを建てるのか?賀茂祭でおなじみ、下鴨神社の境内に建つ「高級集合住宅」の謎
3/13(木) 12:32配信
婦人公論.jp
https://news.yahoo.co.jp/articles/6fa4a012ba258e7410c0ccddb23a4ec706af750d
近年のインバウンド需要で、日本の神社を訪れる外国人が増加しています。そのようななか、島根県親善大使・出雲観光大使を務めるヒーリングシンガー・深結(みゅう)さん曰く「最近は、海外のビジネスエリートが日本の神様や神道に興味を持ち、学ばれることも増えてきている」とのこと。そこで今回は、深結さんの著書『ビジネスエリートのための 教養としての日本の神様』から、ビジネスパーソンの教養となりつつある日本の神様や神社に関する知識を一部ご紹介します。
* * * * * * *
◆神社が抱える問題
近年、境内にマンションを建てる神社が増えています。ほとんどの神社には鎮守(ちんじゅ)の森があり、都会の中にあっても緑豊かで清浄な空気に包まれているので、たしかに住むには最高の環境かもしれません。しかし、歴史ある神社の神域に、なぜマンションが建てられるようになったのでしょうか。
京都三大祭のひとつ「賀茂祭(葵祭)」で知られる下鴨神社(京都市左京区)は2017年、境内に高級集合住宅を建設し話題となりました。
下鴨神社の正式名は賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)。『日本書紀』に崇神(すじん)天皇7(紀元前90)年に社殿造営の記録がある由緒ある神社です。
『枕草子』や『源氏物語』にも登場する鎮守の森は「糺(ただす)の森」と呼ばれ、約12万平方メートルの広大な敷地には、紀元前3世紀ごろの古代原生林の植生が残されており、1994年には世界文化遺産に登録されました。マンションの敷地は境内ではありますが、その指定区域外の駐車場や研修施設があった場所です。
◆式年遷宮の大きな課題とは
下鴨神社では1036(長元9)年から、21年に一度、式年遷宮(しきねんせんぐう)が行われてきました。戦乱や災害のために期間が延びた時期もありましたが、約1000年にわたって受け継がれてきた重要な事業です。
本来の式年遷宮はすべての建物を新しくするのですが、現在は本殿2棟は国宝、社殿53棟は重要文化財のため、傷んだ場所の修繕だけが行われています。
問題は、その事業費の捻出です。神社の収入の柱は、お賽銭のほかに祈祷、婚礼などの玉串料、お守りやおみくじなど授与費への初穂料です。境内の構造上、難しいこともあり、拝観料を取る神社はほとんどありません。
参拝者の多い有名な神社であれば日々の運営費はまかなえますが、式年遷宮となると寄付金を募るしかありません。修学旅行の中高生や外国人観光客にも人気の下鴨神社は新型コロナウイルス感染症まん延前には年間170万人が訪れたそうですが、それでも事情は大きく変わりません。
2015年に行われた式年遷宮は総事業費約30億円で、国の補助金は8億円。残りは企業や個人からの寄付金でまかなうしかありませんでしたが、寄付金集めに奔走した当時はリーマンショックの影響などで景気が低迷し、集まったのは半分ほどだったそうです。
全国を回って寄付をお願いしても、文化財への寄付が社会貢献になるとは言っても、宗教である神社へはなかなか出せないという企業が以前より多くなっているようで、予算が足りない分の修繕は次の遷宮に回すことにしたという話も聞きました。
◆ぎりぎりの選択
下鴨神社のマンションは土地の売却ではなく、50年の定期借地権契約となっており、遷宮の事業費をまかない、いずれは大切な土地も返ってくるということです。
様々な案を検討したうえで、次の遷宮のためにもやむを得ないぎりぎりの選択だったそうです。
同様に境内にマンションを建てた神社は東京都内にも赤城神社(新宿区)や成子天(なるこてん)神社(新宿区)、東郷神社(渋谷区)、妙義神社(豊島区)などがあります。須賀神社(新宿区)は自らが大家となる賃貸物件を建てています。
京都御所の東隣にある梨木(なしのき)神社(京都市)も社殿の修繕に苦慮して2013年、一の鳥居と二の鳥居の間に定期借地権のマンションを建てましたが、「神社の尊厳が失われる」と神社本庁が反対したため、梨木神社は神社本庁から離脱しました。
◆神社の現実
宗教法人である神社が収益事業を行うことについて、透明性を高めるべきだとの指摘もあります。ただ、ほとんどの神社にとって運営が厳しい状況にあるのが現実です。
豊臣秀吉ゆかりの出世稲荷神社(京都市)は2012年、社殿の維持や修繕が困難になり、上京区から左京区に移転しています。境内の土地を中国企業に売ってしまった神社もあるそうです。
高齢化や少子化のほか、近隣にマンションが建って新たな住民は増えても地域に愛着のある地元の人々は減っていくなど、氏子が集まらず伝統ある祭りの開催が危ぶまれている神社もあります。
山間部などでは一人の神職が10社以上の神社の宮司を掛け持っていることもめずらしくありません。後継者がおらず、管理がされずに荒れ果ててしまっている神社や、住宅密集地にあり、参道が周囲の住民の駐車場として使われている神社もあります。
神社の収入が安定しなければ、神職の給与も不安定になってしまいます。有名神社で20年ほど奉職したある神職は、現在は神社とは関係のない民間企業で働いています。
親しい神職のいる神社で臨時で祭祀を手伝うこともあるそうですが、「色々な家庭の事情もあり、神社の給料だけでは家族を養えないから」と神社で専門の神職として奉仕し続けることはあきらめざるを得なかったそうです。
日本人の暮らしとともにあり、日本の歴史に深く関わってきた神社はどうなっていくのでしょうか。これまでのように残していけるのか。どのようにして受け継いでいけばよいのか。私たちも真剣に考えなければならない時期が来ているのではないでしょうか。
※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての日本の神様』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
定期借地だと言っても、それは形式を語っているに過ぎない。リース期限が終了したとき、神社側にお金が貯まっていないことは自明だから、再度リース契約を結ぶか、結局は売り払うことになる。
3/13(木) 12:32配信
婦人公論.jp
https://news.yahoo.co.jp/articles/6fa4a012ba258e7410c0ccddb23a4ec706af750d
近年のインバウンド需要で、日本の神社を訪れる外国人が増加しています。そのようななか、島根県親善大使・出雲観光大使を務めるヒーリングシンガー・深結(みゅう)さん曰く「最近は、海外のビジネスエリートが日本の神様や神道に興味を持ち、学ばれることも増えてきている」とのこと。そこで今回は、深結さんの著書『ビジネスエリートのための 教養としての日本の神様』から、ビジネスパーソンの教養となりつつある日本の神様や神社に関する知識を一部ご紹介します。
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◆神社が抱える問題
近年、境内にマンションを建てる神社が増えています。ほとんどの神社には鎮守(ちんじゅ)の森があり、都会の中にあっても緑豊かで清浄な空気に包まれているので、たしかに住むには最高の環境かもしれません。しかし、歴史ある神社の神域に、なぜマンションが建てられるようになったのでしょうか。
京都三大祭のひとつ「賀茂祭(葵祭)」で知られる下鴨神社(京都市左京区)は2017年、境内に高級集合住宅を建設し話題となりました。
下鴨神社の正式名は賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)。『日本書紀』に崇神(すじん)天皇7(紀元前90)年に社殿造営の記録がある由緒ある神社です。
『枕草子』や『源氏物語』にも登場する鎮守の森は「糺(ただす)の森」と呼ばれ、約12万平方メートルの広大な敷地には、紀元前3世紀ごろの古代原生林の植生が残されており、1994年には世界文化遺産に登録されました。マンションの敷地は境内ではありますが、その指定区域外の駐車場や研修施設があった場所です。
◆式年遷宮の大きな課題とは
下鴨神社では1036(長元9)年から、21年に一度、式年遷宮(しきねんせんぐう)が行われてきました。戦乱や災害のために期間が延びた時期もありましたが、約1000年にわたって受け継がれてきた重要な事業です。
本来の式年遷宮はすべての建物を新しくするのですが、現在は本殿2棟は国宝、社殿53棟は重要文化財のため、傷んだ場所の修繕だけが行われています。
問題は、その事業費の捻出です。神社の収入の柱は、お賽銭のほかに祈祷、婚礼などの玉串料、お守りやおみくじなど授与費への初穂料です。境内の構造上、難しいこともあり、拝観料を取る神社はほとんどありません。
参拝者の多い有名な神社であれば日々の運営費はまかなえますが、式年遷宮となると寄付金を募るしかありません。修学旅行の中高生や外国人観光客にも人気の下鴨神社は新型コロナウイルス感染症まん延前には年間170万人が訪れたそうですが、それでも事情は大きく変わりません。
2015年に行われた式年遷宮は総事業費約30億円で、国の補助金は8億円。残りは企業や個人からの寄付金でまかなうしかありませんでしたが、寄付金集めに奔走した当時はリーマンショックの影響などで景気が低迷し、集まったのは半分ほどだったそうです。
全国を回って寄付をお願いしても、文化財への寄付が社会貢献になるとは言っても、宗教である神社へはなかなか出せないという企業が以前より多くなっているようで、予算が足りない分の修繕は次の遷宮に回すことにしたという話も聞きました。
◆ぎりぎりの選択
下鴨神社のマンションは土地の売却ではなく、50年の定期借地権契約となっており、遷宮の事業費をまかない、いずれは大切な土地も返ってくるということです。
様々な案を検討したうえで、次の遷宮のためにもやむを得ないぎりぎりの選択だったそうです。
同様に境内にマンションを建てた神社は東京都内にも赤城神社(新宿区)や成子天(なるこてん)神社(新宿区)、東郷神社(渋谷区)、妙義神社(豊島区)などがあります。須賀神社(新宿区)は自らが大家となる賃貸物件を建てています。
京都御所の東隣にある梨木(なしのき)神社(京都市)も社殿の修繕に苦慮して2013年、一の鳥居と二の鳥居の間に定期借地権のマンションを建てましたが、「神社の尊厳が失われる」と神社本庁が反対したため、梨木神社は神社本庁から離脱しました。
◆神社の現実
宗教法人である神社が収益事業を行うことについて、透明性を高めるべきだとの指摘もあります。ただ、ほとんどの神社にとって運営が厳しい状況にあるのが現実です。
豊臣秀吉ゆかりの出世稲荷神社(京都市)は2012年、社殿の維持や修繕が困難になり、上京区から左京区に移転しています。境内の土地を中国企業に売ってしまった神社もあるそうです。
高齢化や少子化のほか、近隣にマンションが建って新たな住民は増えても地域に愛着のある地元の人々は減っていくなど、氏子が集まらず伝統ある祭りの開催が危ぶまれている神社もあります。
山間部などでは一人の神職が10社以上の神社の宮司を掛け持っていることもめずらしくありません。後継者がおらず、管理がされずに荒れ果ててしまっている神社や、住宅密集地にあり、参道が周囲の住民の駐車場として使われている神社もあります。
神社の収入が安定しなければ、神職の給与も不安定になってしまいます。有名神社で20年ほど奉職したある神職は、現在は神社とは関係のない民間企業で働いています。
親しい神職のいる神社で臨時で祭祀を手伝うこともあるそうですが、「色々な家庭の事情もあり、神社の給料だけでは家族を養えないから」と神社で専門の神職として奉仕し続けることはあきらめざるを得なかったそうです。
日本人の暮らしとともにあり、日本の歴史に深く関わってきた神社はどうなっていくのでしょうか。これまでのように残していけるのか。どのようにして受け継いでいけばよいのか。私たちも真剣に考えなければならない時期が来ているのではないでしょうか。
※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての日本の神様』(あさ出版)の一部を再編集したものです。
定期借地だと言っても、それは形式を語っているに過ぎない。リース期限が終了したとき、神社側にお金が貯まっていないことは自明だから、再度リース契約を結ぶか、結局は売り払うことになる。
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